小さなキミと
席のトレードが繰り返されるうちに、気づいたら隣の席に服部が座っていて、人知れず胸が高鳴ったのは数十分前のお話。


確かここは服部の正式な席ではないはず……と一瞬訝(いぶか)ったが、トレード祭りに流されて席を取られたんだろう、あたしは大して気に留めなかった。


難しい顔でノートにカリカリ書き込む服部を邪魔しちゃ悪い、とあたしは一応遠慮して、彼に背を向けた姿勢で、結や日向と控えめに喋っていたはずだった。


“他校は既に夏休み”という驚きの情報を耳にするまでは。


あたしの反撃を食らった服部は、こめかみをヒクつかせながら顔を上げた。


「お前に殴られる筋合いねぇわ」


「まっ、これでおあいこってことで」


にっこりと笑みを浮かべて差し出したあたしの手を、彼は力強く捻り上げた。


「痛い痛い痛いーーーーッ」


アハハハと周囲が可笑しそうに声を上げているのが分かったが、あたしとしてはそれどころじゃない。


握手だっつーのバカヤロー!


結局、渋々だけどあたしが謝って、その場は笑いと共に丸く収まった。


前々から疑問なんだけど、なぜかあたしと服部は、言い合いやケンカをすると周囲の人間にウケる。


「他のみんなだって騒がしいのにさ、なんであたしだけー」


ポツリとこぼした愚痴は、服部にしっかり届いたようで、


「一定に騒がしいのといきなり叫ばれるんじゃ、ビックリ度が全然違うんで」


そんな、小生意気な苦言が返ってきたのだった。

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