小さなキミと





4限目のあの時間が天国だとするならば、現在の終礼を兼ねたHRは地獄といえる。


先ほどの騒ぎがどうやら担任に伝わったらしい。


「まったく、俺は情けねぇぞ。
お前らもう高校生だろう? 何で誰も先生を呼びに行かなかったんだ?」


教壇の上からだみ声で嘆くのは、担任の鬼頭先生。


いつもならクラスを代表して受け答えをしてくれる級長は、今日は欠席だ。


静まり返った教室内をジロジロと見渡した先生は、立派に脂の乗った身体を教卓に預けて前のめりにさせた。


「隣のクラスから苦情を頂き、俺はお前らの将来が心配になった。
今は学生だから許されるかもしれないが、社会に出たら一切通用しない」


ハイハイ、それさっきも聞きました。


早く帰りたい。


さっさと終わらせてくれ。


あたしは頭の中で、そんなブーイングを繰り返していた。


クラス中の皆だってきっと同じようなことを、声に出さず主張しているだろう。



っていうか、教室に来なかった教科担任が1番悪いじゃん。


なんであたしたちが怒られなきゃなんないのよ。


と、余裕で(声に出さず)反抗できたのはここまでだった。



「お前らァ、分ァかってんのかァーッ」



それは唐突だった。


耳をつんざくような怒号が、教室中に、おそらく廊下にまで響き渡る。


先生も性格が悪い、あたしたち生徒陣は皆、完全に不意を突かれたのだ。


驚きと恐怖で身体が飛び上がった生徒は、イスの音からして1人や2人ではない。


反抗する気力を根こそぎ奪うような迫力が、その叫びにはあった。

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