小さなキミと
それからの説教は、とにかく耳が痛かった。


文字通り、耳が、鼓膜が痛かった。


うるさいのなんの。


大声出せばいいってもんじゃないが、反抗的なティーンエイジャーを怯ませるだけなら、これ以上に効果的な手段はない。


鬼頭先生の説教の長さは身をもって体験済みだけど、あの時はここまで威圧的ではなかったはずだ。


ここまで生徒を徹底的に萎縮させるような説教ではなかった。


新入生だったがゆえ手加減されていたということを、今更知ることになろうとは。


あまりに恐ろしくて泣き出してしまう女子が出たらしい、雰囲気で悟った。


常時の昼休み終了チャイムが鳴り終わるまで、あたしたち1組面々は全員解放されなかった。


「二度と同じ真似はすんじゃねぇぞ」


鬼頭先生は捨て台詞のようにそう言って、いつものようにドスドスと音を立てて教室を出て行った。


声が、始めと比べてかなりかすれていた。




異様な空気に包まれたままの教室。


残された生徒に共通していえるのは、1人残らず放心状態だということ。


だけどそれもつかの間、ピーンと張った糸がゆるゆる解けていくように、徐々にざわつきを取り戻す。


安堵の声、興奮気味の声、涙声、控えめな笑い声。


我に返った皆のうち大半は、午後からの部活動の為に大急ぎで弁当をかっ込む者と、のんびりと帰り支度をする者とに分かれた。


あたしは後者。運がいいのか悪いのか、今日は女子バレー部はオフの日だ。



そういえば……


ふと、あたしは真面目に勉強していた服部を思い出して不憫(ふびん)になった。


服部真面目に自習してたのに、巻き添えで説教食らって災難だったなぁ。


そんなことを思いながら、後ろに位置する服部の席を見やる。


「えっ?」


ビックリして、思わず間抜けな声が出てしまった。


視線の先の服部は、昼食や帰り支度とは全く異なった行動を取っていた。


机の上にノートを広げて、未だに勉強していたのだった。

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