小さなキミと
「英Ⅰ……?」


あたしの呟きに答えるように、服部が口を開く。


「今日追試だろ、英Ⅰ」


「ハァッ!?」


あたしの発したそれは、ほとんど怒声に近かった。


絶望。その二文字が、頭を縦横無尽に飛び交う。


浮ついていた心に、一気に緊張が走る。


英Ⅰのテスト返しの際、教科担任は「今回は、赤点の子少ないんだよねぇ」と、期待させるようなことを言った。


少ないはずの赤点該当者に見事当てはまったアホなあたしは、完全に自業自得だった。


そして、その赤点科目の大事な大事な追試日を、すっかりポッカリ忘れていたのも自業自得。


「もっと早く……
さっきの自習ん時にでも教えてよ……」


八つ当たりのようなあたしの物言いに、さすがの服部もあたしが赤点だと察したようだ。


「教えるも何も、黒板にデッカく書いてあるし」


呆れ顔で指摘され、あたしは一度黒板に顔を向ける。


……確かに書いてある。赤と白のチョークで大きく、濃く、ハッキリと目立つように。


逆に目立ちすぎていて盲点だった。


「今回オレ剛の点数知らねーもん。つか、まさか赤点取ってるとは思わんだろ。
だってお前、あのデカ……八神と勝負してたんだろ? あの天才と」


八神というフレーズを聞いて、あたしは反射的に顔をしかめる。


「なんで知ってんのよ」


口に出した直後、バカなことを訊いてしまった自分を詰(なじ)った。



────八神くんと剛さんって、付き合ってるんじゃないの?

付き合ってない!


────じゃあ何で名前で呼んでるの?

期末の合計勝負して負けたから。ただの罰ゲーム!


そんな受け答えを、この教室内で何度繰り返しただろうか。


それが服部の耳に届いていたとしても不思議ではない。

< 157 / 276 >

この作品をシェア

pagetop