小さなキミと
「とりあえず入学式行くぞ。終わったら生徒指導室な」


おっさんは小さなクリップボードに何やら書き込みながら、そう言った。


「1年の駐輪場はあそこの角曲がったとこだから。組が書いたプレートが貼ってあるから分かるだろ」


おっさんの指示で、校門の外に設けられた駐輪場に赤い自転車を片づけに行った服部少年。


「で、剛はネクタイがいるんだよな。まず職員室行って、貸出用のヤツもらってこねぇと。まったく、余計な仕事増やしやがってよぉ……」


おっさんが嫌味ったらしくそう言って、どこかに電話をかけ始めた。


「もしもし、小柳(こやなぎ)先生? 私、鬼頭(きとう)ですが。……今正門にいるんですけどねぇ、遅刻してきた新入生が二人いまして。はぁ、そうなんですよ。それにねぇ、1人は生意気なことに、ネクタイが無いんですわ。貸出用、職員室にありましたよねぇ? あれっ、生徒指導室でしたっけ?」


生意気で悪かったな。

こっちだって、必死で探したんです!


すぐに戻って来た服部と一緒に、鬼頭と名乗ったおっさんの電話が終わるのを待つ。


「あぁー、すんませんねぇ、助かります。じゃあ今から行きますわ」


ドスドスと音を立てて歩き始めた鬼頭の後ろを、あたしたちは小走りで追いかける。

とは言っても、あたしは足を引きずりながらだけど。


これから始まる高校生活への期待よりも、すぐ後に待っている途中入場の試練への不安に身震いする思いのあたしだった。

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