小さなキミと
すると、いち早くオレに気づいた剛が、パッと顔を輝かせた。


「おはよ!」


「……おはよ。朝から元気だな、お前」


あまりにも笑顔がまぶしくて、オレは少し面食らった。


「えっ、そうかな? あたし的にはいつも通りなんだけどね!
あ、そういえば服部聞いた? 何か3限目の国演が生物に変わるらしくてさぁ!」


八神をほったらかしに、剛は身を乗り出してハツラツと話し出す。


明らかに、八神に対するそれとは全然違った。


なんだ────何も心配することねぇじゃん。


内心拍子抜けだった。


いつの間にか八神は前を向いてしまっているし。


とはいえ、一応牽制(けんせい)しておいた方がいいかもしれない。


喋りが止まらない剛を、「ちょっと待った」と一旦制する。


「ごめん、お前のこと部活の先輩たちにバレた」


自分が勝手に口を滑らせた、というのは取りあえず無視。


多分、前で八神は聞き耳を立てているはずだ。


剛は目をパチクリさせてから、


「……そ、うか。それは大変だ」と今までの勢いはどこへやら、他人事のような口ぶりでそう言った。


かと思えば今度はハッとした表情を浮かべ、みるみる顔を真っ赤にさせる。



百面相かよ、とこっちまで熱が上がりかけた時、


ふいに剛に腕を引かれ、強制的に前のめりになった。


「あんたまさか、余計なことまで喋ってないよね?」


オレの耳元で、剛が低い声を出す。


余計なこと……分かった、キスだ。


つーか、強引に腕なんか引っ張んなくても言ってくれたらしゃがむのに。


「……ごめん」


それだけで剛は理解したようで、


「嘘でしょもう信じらんない!」とわざわざ耳元で叫んでくれた。

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