小さなキミと
「お前なぁ……」


「うわーーーー、
絶対リサ先輩にイジられるーーーー」


剛は、オレの小言なんて耳に入っていない様子だ。


両手で顔を覆い、「恥ずかし死にしそう、どうしよう」と訳の分からないことを呟いていた。


「リサ先輩って誰?」


訊くと、剛が指を広げて目を覗かせた。


その仕草がやけにしおらしくて、微妙に上目遣いになっているところにまた────胸が鳴る。


なんかコイツ……彼女になった途端、急に可愛く見える気がするんだけど。


「女バレのキャプテン。あの人男バレのそーゆー事情、やったら詳しいんだもん。絶対筒抜けだよ……」


姿勢を頬杖に切り替え、はぁ、とため息を吐いた剛。


あー、なるほどね。


そういうことか。


オレはカバンをほっぽって、しゃがんで剛の机に肘(ひじ)をのせる。


憔悴(しょうすい)気味の剛の横顔を、遠慮なくじぃっと見つめてみる。


「別にオレは恥ずかしくないけどね」


ん? とでも言うように、剛が視線を向けてきた。


「お前が彼女でも恥ずかしくないから」


言ったそばから赤面するオレは説得力の欠片もなかったが、格好くらい付けさせろ、と勝手に自分で開き直る。


途端、剛が目を見開いた。


頬を真っ赤に染め、アワアワしながら何か言おうと口が動いているが、声になっていない。


やっべ……可愛い。


その顔にさせたのは自分なんだと、その事実に思わずにやけた。


と、そのタイミングで朝礼のチャイムが鳴ったので、オレは渋々腰を上げた。


まだ全然喋り足りないけど、仕方ない。


最後に剛の頭をくしゃくしゃっと撫でて、今度こそ自分の席へと向かった。

< 186 / 276 >

この作品をシェア

pagetop