小さなキミと
「……昨日放課後、向こうからっ」


端的に答えると、やかましい3人組はまたキャーキャー騒ぐ。


ここまで自分の事のように喜んでくれるのは嬉しいけれど、それにしてももう少し声のボリュームを考えてほしい。


「もっと詳しく!」とせっつく彼女たちに、


勘弁してくれと顔を背けた方向で、これまた厄介な視線とぶつかった。


「それホント?」


呆気にとられた様子の八神有に、こっちにも敵がいたか、とあたしは頭を抱えたくなった。


こうも多勢に無勢はキツイ……


正直、今は何食わぬ顔で前を向いていてほしかった。


会話を聞かれているにしても、後で1対1で冷やかされるほうがマシだった。


もしくは席を立つとかしてほしかった、なんて。


後から来たのは結たちの方だし、


こんなことを思うのは図々しいんだけど、思わずにはいられなかった。



有にまで説明しなきゃいけないのかあたしは……とさらに萎える。


その時ふと、有に関してのアレのことを思い出した。


「有、そいえば! あたし有の目薬を、」


ガチャガチャと筆箱を引っ掻き回し例の目薬を取り出したのと、


なんとも間の悪いことに、焦った様子の服部が割り込んできたのがほぼ同時だった。


お前余計なこと喋るなよ、と多分服部はこう言うつもりだったんだろう。


言葉は途中で終わってしまったので、最後までは聞けなかったが。


肩を掴まれ振り向いたあたし、その手には有の目薬。


もう有の方へそれを差し出してしまっていたから、自分のものだという言い訳も使えない。


掴んだ本人、服部はみるみる怪訝な顔になった。

< 190 / 276 >

この作品をシェア

pagetop