小さなキミと
直感でピリついた空気を感じ取ったらしく、横の女子3人はすぐさま閉口した。


服部の視線が、例の目薬を捉えていた。


それを持ったあたしの手は、相変わらず宙に浮いたままで動いてくれない。


「……それ八神の?」


服部の質問に、あたしは咄嗟に答えることが出来なかった。


服部が、わずかに手に力を込めたのが分かってしまったから。


掴まれた肩が熱くてたまらなかった。


やましいことは何もないけれど、言い訳のようになってしまうのが怖かった。


筆箱から出すところを見られたのだ。

服部は昨日の不毛な追いかけっこを思い出したに違いなかった。


正直に言えば済む話だ。

正直に、この目薬は八神有のモノだと。


廊下ですれ違った見知らぬ男子生徒に『アイツに返しておいて』と頼まれて、

取りあえず筆箱に入れておいたのをすっかり忘れていた、と。


だけど、それを隠そうとした理由を服部は分かってくれるだろうか────



見つめ合っているとでも思われたのか、どこからか冷やかしの口笛が鳴った。


それも結構な数だ。


ギョッとして辺りを見回せば、それらの出所はすぐに判明した。


後方の服部の席の周りに、ニタニタ笑った男子連中が群がっていたのだった。


気付いた服部がパッと手を退け連中を睨んだ。


からかいの対象になっていたのは、どうやらあたしだけではなかったらしい。


服部が必死になってそこを抜け出してきた場面が頭に浮かぶ。


「圭ちゃん!」


結が連中の中にいる葉山くんを叱ったが、彼はただの傍観者だった。



「三角関係かよー」


「有くん略奪されちゃった?」


と今度は別方向から、馬鹿の一つ覚えのように下世話な野次が飛んできた。


見た目までもが憎たらしい、吉岡率いるお調子グループだった。

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