小さなキミと
「あのさァッ!」


と、ほとんど暴走気味だったあたしを止めたのは服部だ。


あらん限りの声を張り上げ、その一言で場をシーンとさせた。


あたしのヒステリックな怒鳴り声とは迫力がまるで違う。


「吉岡お前いい加減にしろよ」


あくまで冷静に、しかし殺気を孕(はら)んだ声音で服部は言った。


これは吉岡ならずとも身がすくむ。


多分クラス中の皆がこう思ったはずだ────普段大人しいヤツがキレると怖い、と。


あたしからしたら、服部が大人しいだなんて到底思えないけど。


彼の本質は目立つことをあまり好まないタイプなので、クラス全体で見たらその位置づけなのだ。


あたしとの口喧嘩で周りから注目されるのも、服部にとっては不本意だったのだ。


実際、服部はあたし(と葉山くん)以外の人間には怒鳴ったりしないから。


と、これは若干4カ月の付き合いで分かってきた事である。



突然の割り込みに、さすがの吉岡一味も虚を突かれた様子だった。


服部が吉岡に対して意見したことなど、今まで一度もなかったから。


驚いたのはあたしだって同じだ。


服部にさり気なく身体を押され、あたしはそのままストンと椅子に納まった。


大勢の目がこっちに集まっているこの状況で、彼はさらに信じられない言葉を口にした。


「コイツと付き合ってんの、八神じゃなくてオレだから」


────うわあっ、なななな何を言って、公衆の面前で!


その言葉自体よりも、服部がそれを平然と言ってのけたことに驚いた。


見上げた先の服部は、いつになく険しい表情で吉岡を睨み付けていて。


羞恥心とかそういうモノは、まとめてどこかへ捨ててしまったようだった。

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