小さなキミと
「次コイツにちょっかい出したら、殺すよ」


これまた物騒な、いやいや小っ恥ずかしいことを服部はサラッと……。


あたしは大いに恐縮した。


気圧(けお)されたのか吉岡は、首を竦(すく)めただけで何も言わず。


服部の殺気を警戒してか、もうどこからも冷やかしの声は上がらなかった。



それから数秒と待たずに1限目開始のチャイムが鳴り始めた。







その日の放課後。


時刻は既に午後6時を過ぎていたが、7月の夏の空はまだまだ明るい。


夕焼けの色になるにはもう少し時間がかかりそうだった。


自転車置き場の屋根の下、

一足先に部活を終えたあたしは、服部が来るのを待っていた。


サドルに体重を預けて足をブラブラ。


手持無沙汰でやることがない。


周りを見回してみると、あたしと同じく人待ちらしき生徒がチラホラ見られた。


午前で授業が終わるようになったせいか、

残っている自転車の数はいつものこの時間よりも圧倒的に少なかった。


今日一緒に帰ろうと誘ったのはあたし。


会って、今日中にちゃんと言わなきゃいけないことがある。


朝礼後のひと騒動以降、落ち着いて2人で話せる機会を持てなかったので、

有の目薬のことがウヤムヤになってしまっていたのだ。


それに────今日は色々、嬉しかったから。


皆の前で服部がまさかあんなことを言うとは思わなかった。


今でもちょっと信じられないくらいだ。


あたしだって恥ずかしくないもん、と是非ともこれを言いたい。


服部ばかり格好よくて、あたしはただドキドキさせられるだけなんて。そんなのズルい。

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