小さなキミと
「見んな! あっち行けッ!」


怒鳴った服部に邪険に追っ払われ、一瞬怯んだ。


が、その程度で誤魔化されるあたしではない。


彼の可愛いヤキモチを知ってしまった。たまらなく嬉しかった。


そしてあたしの悪い癖なのか、同時にいたずら心が芽生えてしまった────これは形勢逆転のチャンスだ、と。


「服部ぃ、顔真っ赤だよー?」


ちょっと甘ったるい声を出し、さらに頭を突き下げて覗いてみると。


分かりやすくギョッとした服部が、


「いい加減にっ」


と言いながら腕を振り上げたので、あたしはヒョイと身を引いた。


間に自転車があるので、距離的に別に身を引く必要もなかったのだけど。


実際、その腕はむなしく空を切った。


その仕草も、その後のふくれっ面も、全部最高に可愛かった。


悪いとは思いつつも、ついニヤニヤしてしまう。


だけど服部からすれば、当然この展開は気に食わないようで。


何だか湯気が出そうなくらいに真っ赤な顔で「どーせっ!」と吐き捨て、自転車もろとも駆けだした。


「え! ちょっと待って!」


少々やりすぎたか、と慌てて追いかけるも服部の方が速かった。


途中で彼は自転車に飛び乗り、こっちがオタオタしている間に姿がどんどん小さくなっていく。


「ちょーーーー! ごめんってーーーー!」


こっちもペダルを漕ぎながら叫ぶけど、小さな背中は止まらない。


と思いきや、服部は意外にもあっさりとブレーキをかけた。

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