小さなキミと
服部はあたしが追いつくのを待ってくれて、あたしたちはまた、自転車を押しながら並んで歩いている。


日が傾き空が赤く染まってきたが、まるで蒸し風呂のような夕焼けだった。


あたしも服部も汗が止まらず、田舎モンらしく頭にタオルをかぶった。


そして会話は無い。


カラカラ回る車輪の音が、何だか寂しげに重なっていた。


それと、あちこちで大合唱を続ける蝉(せみ)たちの鳴き声も。


「ごめん。からかったりして。
……ちょっと嬉しかったから調子に乗った」


服部から返事は来なかった。


見ると、彼は何だか難しい顔をしていた。眉間にしわを寄せて。


やっぱりふてくされてるんだ。あたしのせいで……。


迷ったけれど、ずっと心に引っかかっていたあの話題を今切り出すことにした。


むしろ最初に切り出すべきだった。部活の話なんかよりも先に、真っ先に。


「有のことなんだけどさ、聞いてくれる?」


やっと目が合った服部は、軽く顎を引いた。


とても微妙な動きだったけど、それを頷いたと都合よく解釈することにした。


「あたし服部に有の話されるとかさぁ、絶対イヤだったから。
だから服部が有の名前出したら、超ムリヤリ違う話題に逃げたの気づいた?」


途中でピクッと服部の片眉が上がるのが分かったが、あたしは最後まで言い切った。


ここでまた逃げるわけにはいかない。


「……そりゃ気づくだろ。あんな風にやられたら誰だって」


「そっか、やっぱ気づいてたか。
でも服部って結構そういう時スルーしてくれるよね」


意外と優しいもんね、と付け足すと服部は俯いてしまった。


いきなり褒められて、反応に困ったのだろう。

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