小さなキミと
兄に頼まれてバイトを始めたというのは既に聞いていたけれど、そのバイト先が女子だらけというのは聞いていない。


あたしとは全然会ってくれないくせに、バイト先の女の子たちとは毎日会ってるんだ。


そんな黒い感情が頭を支配する。


「さっきは違わないって言ったじゃん」


咎めるように冷たい言い方をしたあたしに対し、服部はギョッとした顔になったかと思えばすぐに視線を逸らした。


「そ、れは言葉の綾で」


「どういうことよ! じゃあさっきは嘘ついたの?」


あたしは完全に怒った。


服部があたしに嘘つくなんて信じらんない!


嘘つく女は嫌いって言ったくせに!


「嘘じゃねぇって、だから女子じゃな」


「意味分かんないんだけど!」


「じゃあ説明させろよ!」


「分かったどうぞ!」


急に押し黙ったあたしに、服部は軽く面食らった様子。


「────女子じゃなくて、おばちゃん」


今度はあたしが面食らう番だった。


「おばちゃん……?」


「50代とか60代とかのおばちゃんを女子とは呼べねぇだろ。
オレのバイト先、スーパーの総菜屋(そうざいや)だから」


「えぇーーーー!?
服部のバイト先って、スーパー!?」


服部とスーパーの組み合わせが意外すぎて、あたしは目をまんまるにした。


「悪いかよ。兄貴のバイト先がそこなんだから仕方ねぇだろ」


服部はムッとした表情でそっぽを向いた。


「いや……悪いとかじゃなくて、意外だなぁって。
だって服部が料理するところとか……想像できないから」


「別に料理なんかほとんどしねーよ。
冷凍の食材を油に突っ込んだり、弁当に色々詰めたりするくらいで。
あ、でもカツ丼作るときはちょっとフライパン使うかな」


そう話す服部の口調はどこか大人びていて、何だかあたしの知らない人みたいだった。

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