小さなキミと
「へぇ……。
何か、すごいね服部……。
部活もやってるのに大変じゃないの?」


すると服部は、少し意外そうな顔であたしを見た。


「いや? まぁ楽ではないけど、そんなにキツいバイトじゃねぇしな。
部活は部活で、バイトはバイトで楽しいよ」


ここへきてようやく、彼が自然な笑顔を見せた。


「そっか……」


あたしは何だか複雑だった。


服部はあたしがいなくても楽しい夏休みだったんだなぁ、とか思ったりして。


あたしは服部と会えなくて寂しかったけどなぁー。


まぁでも、こんなこと言って重い女だと思われるのも嫌だし。


せっかく一緒に遊園地に来てるんだから、今を楽しまないと……。


「────なかなか剛と会えないってのは、ちょっとキツかったけど」


あたしは目を見開いた。


「……え?」


服部はあたしの視線には応じず、誤魔化すように肉野菜の包みにガブリとかじりついた。


「えっ、何、もっかい言って?」


しっかり聞こえたけど、もう1回聞きたかった。


すっごく嬉しかったから。


「ふーへぇ、はぁれ」


「服部1度に頬張りすぎ!
何言ってるか分かんないよ!」


おそらく『うるせぇ黙れ』だろうな、と見当はついたけれど。


毎度毎度、不意打ちはズルいって服部!


心で盛大に文句を垂れつつ、あたしも大口を開けて肉野菜をかじった。


「服部くんって、結構甘いこと言うね」


横からの結の声に勢いよく振り向くと、すかさず「顔真っ赤~」とからかわれた。


「お前の為なら何でも出来る、とかも言われたんでしょー?
あたしも言われてみたいわそんな甘いセリフ」


結がからかい口調でそう言った途端、派手に咳き込み出した服部。


涙目でキッと睨み付けられたあたしは、咄嗟に視線を泳がせる。

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