小さなキミと
「もぉーーーー! 余計なことを!」


イラついた口調で吐き捨てた剛は、おばさんを連れて、母に文句を言いに厨房へ向かってしまった。


残されたのは見るからに場違いなオレと、もっと場違いなひらひらワンピースの女の子、アカネちゃん。


するとアカネちゃんがオレのカッターシャツの裾を軽く引っ張った。


オレの目算では小学校の低学年くらいだと思われるその子が何か言いたそうにしていたので、オレは小柄な彼女の身長に合わせて背中を屈めた。


「ねぇねぇ彼氏さん、もう涼香ちゃんとチューした?」


「……」


アカネちゃんは見た目以上に“ませた女子”だった。







店内はというと、オレたちが到着した時間とは比べものにならない程の混み様だった。


基本ガヤガヤしていて、時々どこからともなくドッと盛り上がるような感じだ。


カウンター席の一画で、剛の母親が用意してくれた『いいモン』という名の夕食サービスメニューを頬張るうちに、だんだんオレは充満した酒の匂いとタバコの煙にも慣れて来た。


「高校生か! 見えねぇけどお前さん高校生か! いいなぁ高校生!」


隣の席のおっちゃんのしつこい絡みにも慣れて来た。


「オレが高校ん時はなぁ、男は丸坊主で女は三つ編みじゃねぇとダメでなぁ」


とはいえ同じ話を5回もするのは流石に勘弁してほしかった。

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