小さなキミと
服部は酔うと寝るタイプなのか、なんて呑気な事を考えている場合ではない。


「ねぇママ、服部どうしよう」


ホールを忙しく動き回る母を捕まえ、状況を説明した。


「エッ? 飲んじゃったの、あの子!」


参ったなぁと頭をかきつつも、母は周囲に視線を配ることを怠らないところは流石だった。


がしかし、あたしはこの母親が、高校生の服部に酒を進めていた事を忘れてはいない。


「ママだってアイツにビール飲ませようとしてたよね?」


「アレは冗談! からかっただけに決まってんじゃない!
あんな小学生みたいな顔した子に、本当に飲ませる訳ないでしょうが!」


居酒屋の主である自分が未成年に飲酒を促すわけないでしょう、と母は息巻いた。


「冗談には聞こえなかったけどなぁ」


あたしの小言に、母はスルーを決め込んだ。


「とりあえず、涼香からあの子の親御さんに電話入れときなよ。
優子(ゆうこ)と茜ちゃん、またいつもみたいにみっちゃんに迎えを頼んだはずだから、あの子も一緒に乗せてもらえばいいんじゃないの?」


優子というのはおばさんの事だ。


ママの2歳年下の妹で、みっちゃんと茜ちゃんのお母さん。


この店は駐車場が無いから車で来るのには向いていない。


みっちゃんが車の免許を取ったのを良い事に、今夜の優子おばさんは飲みまくっていた。


それにしても、親子そろって服部を小学生呼ばわりとは……。


あたしは少しだけ服部の事を不憫(ふびん)に思った。

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