小さなキミと
「オレ行くわ」


店に戻ろうとした凛太朗の手首を掴んで止める。


「あっちはあたし行くから、リンは服部を上に運んで」


「断る」


凛太朗は即答だった。


まぁそう来るだろうと思ったけどね。


でも服部をあのままにしておく訳にもいかないし、とはいえ自分で上に運ぶのは体力的にキツイ。


逞(たくま)しいとは言えないけれど、無駄にタッパだけはある凛太朗の身長に頼らないのは惜しい。


「お願いお願い、一生のお願い! 今度何か奢ってあげるから!」


「嫌だ。お姉の口約束は信用でき……」


「頼んだよ!」


強引に役目を押し付け、あたしは座敷の客の元へと走った。


凛太朗が吐いた悪態を背中に浴びながら、心の中で舌を出す。


「悪いねぇ、コイツが皿まるごとひっくり返しちまってよォ」


「いえいえ大丈夫ですよー」


座敷に広がる茶色いタレを拭きつつ、あたしは凛太朗がカウンター席に向かう様子を確認した。


遠目でも分かるくらいに、気乗りしない様子の凛太朗。


突っ伏したままの服部を軽々と背負って、我が弟は店の奥へと消えた。


────よしっ、さすがリン!


あたしは密かにガッツポーズを作った。


口ではああ言った凛太朗だけど、ちゃんと頼んだ事をやってくれる意外と律儀なヤツだった。


というより押しに弱いのかもしれない。


それを分かっていて頼みを押し付けるあたしもどうかと思うけど。

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