小さなキミと
「────」


服部が唸るように何か言った。


「え? もう1回言って!」


聞いたのか聞いていないのか、あたしが知りたいのはそれだけだ。


身を乗り出して服部に詰め寄るあたしに、服部が虚(うつ)ろな目を向ける。


「ごう……?」


「そう! あたし剛です、剛涼香!
ってかそんな事よりもさっきあたしが言った事……」


あたしは言葉を飲み込んだ。


服部が────あたしの髪を触ったから。


風呂上りで少し湿った、胸なんて楽に通り越してしまう程に長い髪の毛を。


弄(もてあそ)ぶように、彼は幾度となくあたしの髪を拾っては、スーッと手に這わせて落とす行為を繰り返す。


「あのさ……服部、なにしてんの?」


戸惑うあたしに、服部が一言。


「なげぇ」


────はい?


あたしの理解が追いつく前に、服部はおもむろに起き上がった。


「おまえさぁ……やっぱ髪下ろした方が可愛いわ」


────えぇっ!?


あたしは耳を疑った。


「今、なんて言った……?」


服部が不思議そうに首を傾げたので、あたしは同じ質問を繰り返した。


「だから、今なんて」


「お前が可愛いって言った」


何の抵抗もなく言ってのけた服部に、思わず呆然(ぼうぜん)となるあたし。


すると服部は、今度はケラケラ笑い出した。


……なんなんだよ。


あんた、一体誰……?


あたしは軽くパニック状態に陥っていた。

< 252 / 276 >

この作品をシェア

pagetop