小さなキミと
「オレさぁ、頭なでられんのすっげぇ嫌いなんだよねー。
もういい加減ガキ扱いされんの飽きたしー、高校生にもなってさぁ」


今まさに、あたしの頭をなでている服部の発言である。


ベッドの上から見下ろされ、髪をすくように頭を撫でられ。


そのくせ自分はそれをされるのが嫌いだと言う。


この脈絡のない彼の言動に、あたしはようやく納得のいく答えを見つけた。


────コイツ、まだ酔いが抜けてない。


そして酔っている人間というのは、その腹の中の本音を喋ってしまうものだ。


あたしは軽くショックを受けていた。


思い出すのは、あたしたちが付き合い始めたあの日の事だ。


誰もいなくなった放課後の教室で、あたしは服部の頭をくしゃくしゃに撫でた覚えがあるような、無いような。


「あの、服部ごめんね。今さらだけど」


すると服部は、「ハァー?」と声を裏返らせるほどのリアクションを示した。


「剛は良いのー。特別だから」


普段では考えられないほどの甘いセリフに、やはりあたしは全身でときめいた。


が、服部は構わず言葉を続ける。


「つーか、そうじゃなくてさぁ。
オレが言いたいのは、撫でたくなる気持ちも分かるなーっていうか……」


そう言って、服部は手を動かすのを止めた。


その手がゆっくりと、あたしの頬に移動する。


「剛……」


絞り出された彼の声は、ビックリするほど耳に響いて─────


酔っぱらいのくせに、くれたのはどうしようもなく優しい口づけだった。

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