小さなキミと
冷静に考えると、自分は信じられないくらい大胆な事をした。


何でだろう……と考えても、明確な理由なんて無い。


謝らせた罪悪感?


単純に好奇心から?


────そんなのどうでもいいや。


あたしは考える事を放棄した。


無我夢中で、彼の舌を追いかけるのに必死だった。


生まれて初めての、苦くて深い深いキスに溺れた。



それでも最初はお互いに、どちらかというと服部の方が躊躇(ためら)いがちで。


探り探りでぎこちなくて、遠慮気味で、合わなくて。


少しだけもどかしく思っていた時、ふいに後頭部を掴まれてグッと唇を強く押し当てられた。


その瞬間、開き直ったように服部は遠慮を捨てたのだった。


あたしからキスをした事で、服部は何かから解放されたのかもしれない。


それからは完全に彼のペースに飲み込まれていた。


あまりの激しさに、時々意識が飛びそうになる。


気づけば自分の背中がベッドに沈んでいた。


時折ぞくっ、と身体を走る刺激に震えた。


出来るだけ堪(こら)えているつもりだけど、息継ぎするたびにどうしても声が漏れてしまう。


それは、とても自分のものとは思えなかった。



絶え間なく重なる唇からは、子どもっぽい言い方をすると、すごくヤラシイ音が鳴っていた。


────ヤラシイ音、かぁ。


懐かしい出来事があたしの頭をよぎった。


あたしにだって、全く無知で純粋な子ども時代もあった訳で。


いわゆる大人の動画? というヤツの存在も、中学の時に部活の先輩に教えてもらうまでは知らなかった。


ある日先輩が部室に持ち込んだ小さな端末の画面上で、身体を重ねる男女の姿を見たときの衝撃は忘れない。


キャーキャーはしゃぐ周りの部員たちとは違って、あたしはただただ呆然としていたんだっけ。


『ヤラシイ! 音がヤラシイです先輩!』


『そりゃ、実際この人たちヤラシイ事してるからね』


そんな会話のやり取りをした事もあったなぁ……。


忘れかけていたその恥ずかしい動画の内容が、鮮明に蘇ってきたのは言うまでもなかった。

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