小さなキミと
心の声とは裏腹に、嫌でも彼女の唇に目が行ってしまう。


すっかり大人しくなった剛が可愛かったし、もっと独り占めしたいと思う欲がどんどん湧いて来て困る。


とはいえ……今まで触れる程度で抑えてたのに、いきなりがっついたら引くだろ、さすがの剛も。


やっぱナシ、今はダメだ。


熱くなった剛の頬からスッと手を引き、オレは剛に背を向けた。


と、その時ふいに思い出した。


肌の熱、息遣い、漏れる声、濡れた音、柔らかな感触、シャンプーの香り────


振り返ったオレの目に映ったのは、少し頬を赤く染めた剛の顔。


オレは、生まれて初めて血の気が引くというのを実際に体感した気分だった。


サァーッと、冷たいものが一気に身体を通り抜けたような感覚だ。


「なぁ……。
オレら、昨日どこまで────」


タイミングが良いのか悪いのか、オレの言葉は途中で切られた。


ガラッと勢いよく開けられた部屋の引き戸から、ユニフォーム姿の長身兄弟1号が現れたのだ。


「お姉! オレの弁当箱……」


ベッドの上で向かい合うオレと剛を見て、弟くん1号は一瞬フリーズした。


そして何事もなかったかのように、無言で引き戸を閉めた。


「……リンへの説明は後にして、服部のさっきの質問だけど」


剛は心なしか、いたずらっ子のように悪い笑みを浮かべていた。


「服部って、結構大胆なんだね」


「ハァッ!?」


キーンと虚しく頭に響く、自分の素っ頓狂な声。


頭を抱えてうずくまったオレに剛は言った。


「また今度ね」

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