小さなキミと





朝練終了後の、体育館から教室へ向かう道すがら。


沢田がオレを、部員たちの集団の流れからそれとなく引き離した。


「オイ服部、お前本当の事教えろよー」


この沢田という男は、俺が思っていた以上に聡(さと)いヤツだった。


「何の話?」


とぼけるオレに、「そーいうのいいから」と沢田が鬱陶しそうな顔をする。


「……本当もなにも、さっきお前と玉井先輩に言った通りだっつの」


沢田は煮え切らない様子で「つまんねーの」とつぶやいた。


沢田は男子バレー部の中では小柄な方だが、やはりオレよりは高くて並ぶとどうしても見上げる姿勢になる。


「家まで行って何も無いとか、お前小学生かよ」


「うっせーな。
つーか今日って体育ねぇよな?」


「は? 普通にあるし。
なにお前体操服忘れたの? ださ」


オレとは他クラスの沢田だが、部活を通じてすっかり打ち解けて、今では仲の良い友人の1人となっている。


だが、オレはコイツの前で剛の話はしたくない。


付き合うまでは知らなかったが、剛の隠れファンはそこら中に潜んでいるのだ。


オレは努めて自然に話を変えて、教室までの道のりを何とかしのいだ。


「服部くん、おはよー」


「はよ」


入り口付近にいた女子と挨拶を交わし、オレは教室へ足を踏み入れた。

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