小さなキミと
真っ先に、窓際の剛の席を見るのが自然とオレの日課になっていた。


お喋りで夢中の剛は、いつもオレが来た瞬間に気づかない。


しばらくして、『あれぇ、いつの間に来たの?』とか何とか言いながら俺の席にやって来る。


それも日課だった。


────でも今日は違った。


お喋りで夢中の剛はいた。


たしかにいたのだけれど、オレと目が合った途端そいつは消えた。


そう、まずオレが教室に入った瞬間に目が合ったところがいつもと違ったのだ。


そのくせ剛は即座に目を逸らしてうつむいた。


そんな剛を見て、お喋り相手の鳴海さんも不思議そうな顔だった。


「なに、涼香服部くんと何かあったの?」


「……ちょっとね」


朝礼前の、教室内の騒めきの中、彼女たちの会話がうっすらと聞こえた。


────あの、バカ!


オレは駆け足で部活仕様の大きなバッグを自分の席に収めた。


そして間を空けず剛の席へ直行。


有無を言わせず彼女の腕を引き、教室から連れ出した。


「な、なに? どこ行く気?」


後ろから戸惑う剛の声が聞こえるが、オレは振り返らず廊下をどんどん進んだ。


いや……訂正。振り返れなかった。

どこ行く気だろ、オレ……。

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