小さなキミと
「────でもホントに服部、成長したよ」


ふいに剛が真面目な顔をしたかと思えば、スッと立ち上がって窓際へ向かった。


「は? お前……なに言ってんの?」


戸惑うオレに構うでもなく、剛は勝手に言葉を続けた。


「もう全然平気になっちゃってんじゃん。女の子」


「────急に何言い出すんだよ」


オレは背中を向けられた理由が分からず戸惑った。


もちろん心当たりはない。


「今日の朝、渡辺さんたちと普通に挨拶してたじゃん」


「……は?」


「渡辺さんが、服部におはようって言ってさ。
服部もおはよって返してさ」


冗談にしてはちょっと険のある言い方だ。


「────そりゃ、オレだって挨拶ぐらい出来るよ」


「そーなんだけどっ」


剛が振り返ったと同時に、ふわりと風が舞い込んでカーテンが膨らんだ。


「前までは出来てなかったから……なんか、やだ!」


開け放たれた窓に吸い込まれていくカーテンの後ろから現れたのは、真っ赤なふくれっ面だった。


────うわ、それ反則だろ。


オレは咄嗟にうつむいた。

あっという間に顔に熱が溜まる。


こういうの前に一度あった気もするけどやっぱり、何か、なんか。


────妬かれるのって、けっこう嬉しいモンなんだな。


と、少し浮かれていたオレに気づいたのか、剛が取り繕うように言葉を発した。


「……なんてねっ!
いいのいいのっ、あたしちゃんと分かってるから!」

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