小さなキミと
「え……、何が?」


訊いたオレがバカなのか、剛の言葉がデタラメなのか。


「だってあたしの事────愛してるって言ったもんね?」


剛は言うと同時にうつむいた。


1限目開始のチャイムが鳴り始めたのは、そのすぐ後だったのか、しばらく経ってからだったのか分からない。


とにかくオレは頭が真っ白になっていた。


「お、オレが……? い、いつ、そんな事」


「おとといの服部は凄かったなぁー。
アンタは覚えてないだろうけど、もうさ、こっちが恥ずかしくなる程クサいセリフばっか言ってくんのね。
何なら録音しとけば良かった?」


少し生意気な上から目線の剛は、自分が優勢だとみて強気になっている。


記憶の曖昧なこっちとしては、『嘘つけ!』なんてのは言えない訳で。


「……出来れば忘れていただきたいんですけど」


「やーだよ」


完全に遊ばれている。


「ていうか、あたしをここまで引っ張って来た理由、まだ聞いてないんだけど」


あー、そういえばそうだったな……。


何かもうどうでもいいや。鳴海さん経由で圭に筒抜けだろうが、どうでも……。


「────おとといは迷惑かけて悪かったって、謝ろうと思ったんだよ」


口から滑り出たのは、そんな言葉だった。


ったく、オレってつくづく調子いいよな。


内心自分に飽きれていると、今度は剛が戸惑いをみせた。

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