小さなキミと
「オレ、最低だな……」


オレは体育座りでひざに顔を埋めながらごにょごにょとつぶやいた。


「酔って手ェ出すとか、ていうか親いる彼女んちでそういう……もうオレ殴っていいよ」


「エッ? 服部何言ってんの?」


パタパタとスリッパを鳴らして剛がかけ寄って来た。


「つーかすげぇ悔しいんだけど。
今までどれだけ我慢してたと……」


やべぇ、つい口が滑った。


「さ、酒って恐ぇな! なっ」


なんとか誤魔化せたか? 聞き流してくれれば幸いだけど。


そう思って顔を上げると、予想外に剛の顔が近くにあって思わずのけ反った。


ドキドキと騒ぐ胸を押さえていると、剛がフゥ、とため息を吐いた。


「よし、じゃあ一発殴らせてもらおうかな」


「……あぁ」


自分で言っといてアレだけど、まさか本当に殴られる事になるとは。


「目つぶって歯ァ食いしばれ!」


剛のかけ声に圧倒されつつ、オレはキュッと固く目を閉じた。


1秒、2秒、3、4、5……。


数秒待っても、ガツンと来るであろう衝撃は無い。


待ちきれなくてうっすらと目を開けた時、懐かしい匂いが鼻をくすぐった。


「えっ……?」


唇がふれたのは、それがレモンの香りだという事に気づいたのと同時だった。

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