小さなキミと






「だから、迷ったんですってば。
この学校広すぎだから」


必死に弁解する剛の前に、疑いの目を緩めないおっさん教師が1人。


「迷った、だぁ? つくならもっとマシな嘘にしやがれ馬鹿どもが」


鬼頭のガラガラ声は相変わらずだが、初対面の時のような威圧感はもう感じない。

慣れは、時に武器となる。


「ま、間違えて入っちゃったところを、運悪く閉じ込められたんです。 ……だよ ね、服部?」


隣からいきなり話を振られ、オレは咄嗟に頷いた。


が、相変わらず正面のデスクに座る鬼頭は名前の通り、鬼のような形相だった。


ここは生徒指導室。


結局、一限目が終わって女子たちが着替えに来るまでの間、オレたちはあの狭い教室に閉じ込められる羽目になって。


中高一貫の教師に見つかった直後、そのまま2人揃って生徒指導室行きを余儀なくされたのだった。


まだ頭がぼうっとしているオレに変わり、剛がもっともらしい言い訳を並べてくれていた。


まぁ、そんな剛もどことなくフワフワしてるけど。


もとはと言えばオレのせいだから、少し後ろめたい気持ちもあった。


だけど正直、鬼頭の説教も剛の弁解も、今のオレにとっては他人事だった。


────剛は、人の事を言えないと思う。


オレのことをよく『大胆』だとか『余裕がある』とか言うけど、剛の方がよっぽど……。

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