小さなキミと
「あたしの理想のタイプがそんなに気になるなら教えてあげるけど?」


さっき服部に言われたことを思い出し、上から目線でふざけてみる。


「ハァ? そんなこと一言も」


「背がうんっと高くてぇ、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)でぇ、色黒でぇー」


訊かれてもいないのに、次から次へと理想を挙げていく。


服部は一瞬顔をしかめ、それからクックと笑いをかみ殺し始めた。


「ロマンチストで、知性的で……あれっ、冗談だと思ってる? 言っとくけど全部マジだからね?」


ブッと噴き出す服部。


「あたしのピンチに颯爽(さっそう)と現れたり、壁ドンで強引にキスしたり、とかさ。ぶっちゃけ憧れるよねー。
服部はお子様だから分かんないでしょ」


ついに、服部は何かがはじけたような笑い声をあげた。


「アホか、なんだそれ。そんなヤツ絶対いねーよっ」


「バカだなぁ、服部は。いないから理想なんじゃん」


なるほどっ、と言ってさらに笑い出した服部。


“お子様”にも“バカ”にも反応しなかった。


変なの。ツボっちゃってるよ。


いつの間にかあたしの隣に来ていた服部の横顔を見ていたら、何だかこっちまで笑えてきた。


やっぱり八重歯が可愛い、なんてね。


「大体あたしのピンチってなんだよ。何か失くすたびに呼びだされるんじゃ、たまったもんじゃねーな」


「そんなショボイピンチくらい、1人で乗り切れますよーだ」


講堂にたどり着くまでの退屈な時間が、服部のおかげで結構楽しかった。

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