小さなキミと
天井からカーテンのように吊り下がった、緑色の巨大なネットが体育館を真っ二つに仕切っている。


あたしたちが入って来た側、緑のネットの手前では、バスケ部やバドミントン部がごちゃ混ぜになって準備に取り掛かっていた。


それに対してネットの向こうのステージ側は、バレー部の男子しかいないように見えた。


今日は男子バレー部はステージ側が全部使えるんだ。

だから女子を呼んだのかなぁ。


そんなことを考えながらネットをくぐると、散り散りになって準備をする男子バレー部員の中で、ひときわ小柄な生徒が目に入った。


彼は、重そうな支柱を1人で頑張って運んでいた。


なんかあの子、服部みたい。

細身だけど、筋肉質な感じ。顔は……


「あれ?」


思わず口からそんな声が飛び出て、あたしは目を見開いた。


その小柄な彼は、本当に服部だったからだ。


あたしの声に気づいてこっちを向いた服部も、目を見開いて立ち止まった。


「ちょっと、涼香? 止まんないで」


後ろの日向に背中を押され、ハッとして前を見ると先輩の背中が遠くなっていた。


「ご、ごめん日向」


慌てて小走りで距離を詰める。


歩きながらもう一度さっきの方向に目をやると、服部はあたしを睨みながら口をパクパクさせた。


“か・え・れ”


帰れ、だとーーーー?


ふざけんな、あたしはアンタに会いに来たわけじゃない!


服部に向かって、思いっきり歯をむき出して噛みつく真似をする。


服部は、ウッと痛そうな反応をしてから、すました顔で支柱運びを再開した。


ほんっと、ムカつくやつ!

お前が帰れ!

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