小さなキミと





時計の針はもうすぐ、最終下校時刻の午後6時を回る。


現在、部員総出の後片づけも終わりに近づいていた。


「剛さぁー、絶対勘違いしてるよね?」


床のモップ掛けをするあたしの元へ寄って来たかと思えば、開口早々服部はそんなことを言った。


「うっさいな、どっか行けバーカ」


我ながらなんて子どもっぽい暴言なんだろう。

けれども、とにかく今は服部の顔なんか見たくない。

今はっていうか、もう一生見たくないっつの!


あばよの意を込めて足を速めたのに、服部は予想外にしつこく付いてきた。


「あれだろ? 自己紹介でオレが笑ったから怒ってんだろ?」


ピタリ、と足を止めて、わりと真剣な表情の服部をジッと見つめる。


「怒って、ないよ」


口に出して言ってみると、少し冷静になれた。


そうだ。

変に意地張ってただけで、怒りなんてとっくに冷めてるわ。


「ごめんごめん、アンタに馬鹿にされるなんていつものことなのにね」


アハハ、とあたしは声に出して笑った。


あの服部の自己紹介で勝手に親近感が湧いて、勝手に勇気をもらっただけ。

その分、笑われてショックだっただけだ。


ショックを無意識のうちに怒りに変換してたんだなぁ、あたし。


「服部、もう行っていいよ。本当に怒ってな」


「馬鹿にしてない」


あたしが言い終わる前に、服部が意外な言葉を被せてきた。

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