小さなキミと
服部は驚いて目を丸くした。


「お前、何で知って……?
オレ絶対言ってない自信あるけど」


「葉山くんに聞きました」

あたしはニヤリと笑って言った。


「アイツ……あの馬鹿ッ」


途端に顔を歪(ゆが)めた服部。


葉山くんへのすさまじい怒りで、服部の目が燃えているように見えた。


「今日帰ったらとっちめてやる。貸せッ」


服部はあたしの手からモップの柄を奪い取って、猛スピードで走り出した。


あら、モップ掛けやってくれるの?

アハハ、なんか行動がガキっぽい。


「つーかお前笑ってんじゃねーよッ」


壁でUターンして戻ってきた服部が喚いた。


「お前こそ、俺のこと馬鹿にしてんじゃねーの?」


「してないしてない。あ、服部。あそこホコリ拾えてないよ」


あたしは数メートル先の床を指さして、にっこり笑顔を作った。


火に油っていうのは、きっとこのことだ。


顔から煙でも出そうな勢いでむくれた服部が、踵(きびす)を返してホコリを回収しに走る。


その隙に、あたしはステージの上へさっさと退散した。


女子バレー部の荷物の周りには、すでに部員たちが集まっていた。

もう片付けはほとんど終わっていて、作業をしている部員はモップ隊数人だけだったのだ。


わりと高さのあるステージから、眼下の服部に向かってひらひらと手を振る。


服部は、信じられないと言うような顔でこっちを見上げていた。


それから自分の手にしたモップの柄をジッと見つめ、深いため息をついていた。

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