小さなキミと
暑い、暑すぎる。

じりじりと照り付ける日差しのせいで、噴き出る汗が止まらない。


つい最近まで寒い寒いと震えていたのが嘘のようだ。


おまけに生ぬるい向かい風がビュウビュウ吹き付け、腹立たしいったらありゃしない。


あたしの気力はどんどん削がれていった。


さすがのあたしも、そろそろ限界。

サドルに腰を下ろし、一旦ペダルを放棄した。


一体、今は何時だろう。


手首に目をやったが、腕時計はない。


畜生(ちくしょう)、忘れて来た。


仕方なく、胸ポケットからケータイを取り出す。


画面に表示された時間は、あたしのボルテージをどん底に突き落とした。


“AM10:02”


入学式は始まってしまった。

ショックのあまり、失神でもしてやりたい気分だった。


いっそのこと、欠席してやろうか。

そうすれば、途中入場なんていう恥さらしをせずに済むし。


後で母にどやされる方がまだマシだ。


しかしながら、そういう甘えを許さないのがあたしの面倒くさいところで、唯一人に誇れるところでもある。


そうだ、たかが途中入場ごときにビビってどうする。


ケータイをしまい、無理やり自分を奮い立たせた。


行け、行くんだ涼香────


無情にも、さらに追い打ちをかける出来事があたしを襲ったのは、この直後のことだった。

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