小さなキミと
「しっかし、世良(せら)も大変だよなぁ。
こんなやかましい2人に挟まれてたら、授業なんか集中できないだろうね、きっと」


答案用紙をクラス全員に配り終えた後で、桜井先生が独り言のように言った。


相変わらずざわついている教室を、注意するでもなくそんなことを言い出すとは。

本当に教員免許を持っているのかと疑いたくなる。


「授業中は静かですよ……大体は」


いつも静かです、と自信を持って言えないのがちょっと悔しい。


ちなみに世良というのは、あたしと服部の間の席の男子生徒だ。


最前列で教卓のド正面という外れポジションに加え、両サイドはあたしと服部、という厄介な特典付き。

あたしが言うのもなんだけど、実に運の悪い子だ。


「いや、別にオレは気になんないんで大丈夫です」


そう言って愛想笑いを浮かべる世良くんに、桜井先生は「ふーん」と興味なさそうな反応を示した。


今まであまり気にしてなかったけど……。

もしかして世良くん、あたしと服部のことを内心ウザったく思ってたりする?


「じゃー、採点ミスあるヤツ、前持って来いよー。この時間に持ってこないと受け付けないからなー」


桜井先生の呼びかけにハッとしたクラスメイトたちが、ドッと教卓に押し寄せた。


あたしも含めて、15、6人はいると思われる。


桜井先生、もっとしっかりしてくれよ。

いくらなんでも、採点ミス多すぎでしょ。

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