小さなキミと
「じゃあ、顔だけ見たらどう? 世良くんって日向のタイプに近い?」


結がワクワクした声で日向に詰め寄った。


「えー、急にそんなこと言われてもなぁ」


そのとき、ガラッと教室前方のドアが開いた。


購買から戻って来たと思われる男子の軍団が、賑やかに笑いながら教室に入ってきた。


ドア近くに陣取るあたしたちのそばをゾロゾロと通過していく男子たちの中に、今しがた話題に上っていた世良くんの姿があった。


ついつい、ジーッと世良くんを目で追ってしまうあたしたち3人。


世良くんは、カッコいいというよりは可愛い系なのかもしれない。


黒目がちな瞳が印象的で、まだ少しあどけなさが残っている。


あたしたちの視線に気づいていない様子の世良くんは、

そのままあたしの左隣の席にドカッと腰を下ろし、買ったパンそっちのけでスマホをいじり始めた。


「ねぇ、世良くんって彼女いるの?」


唐突に、結がわりと大きめの声で言った。


日向がギョッとして結を見る。


「……え?」


そう呟いて顔を上げた世良くんは、チラッと日向を見てから「いないけど」と小さな声で言った。


あれ、今の視線はなに?


「そうなんだー。っていうか、日向から聞いたんだけど、騒がしくないと逆に気が散るって本当?」


さりげなく日向の名前を出した結。


「あー、うん。オレ昔からそうなんだ」


そう答えた世良くんは、急展開な話の流れに少し戸惑っているようだった。

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