小さなキミと
「世良くーん? その顔でごまかしても無駄だけど?」


ニヤニヤしながら冷やかすあたしと、腕を組んで意地悪な笑みを浮かべる結。


質問というより、もはや誘導尋問だ。


「や、えっと……あー、もうっ」


タジタジの世良くんは、諦めたのか手で口元を隠しながらコクリと小さく頷いた。


うわぁ、世良くん可愛い!


世良くんは、恥ずかしそうに俯いたまま、ズズッと鼻をすすった。


「いいなぁ、恋。青春だねぇ」


微笑ましいほど純情な、世良くんの真っ赤に染まった顔を見ていたら、

自分でもババアかと突っ込みたくなるセリフが口から出ていた。


これは決して結に対して放った言葉ではなく、あくまでも世良くんの様子に対するただの感想であって。

だから別に、あたしが恋をしている世良くんを羨ましがっている訳ではない。


そういう意味の“いいなぁ”ではなくて、言い換えるなら“いいねぇ”や“いいじゃない”になる。


にもかかわらず、何を勘違いしたのか結がとてつもなく面倒くさいことを言い出した。


「へぇ、いいこと聞いちゃった。涼香、恋がしたいんだぁ。
だったらあたしが合コンでも何でもセッティングしてあげる」


「ハァ? 何でそうなるワケ? そういう意味で言ったんじゃないから」


結は一度やると言って本気になったら、何があっても絶対にそれをやり遂げようとする。


それは彼女の長所の一つなんだけど、今に限っては非常に厄介だ。


悪いけど、あたしは合コンなんて絶対に死んでも行かない。

あたし、初対面の男子と仲良く楽しくお喋りできるほど胆(きも)据わってないから。

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