小さなキミと
ハッとしたときにはもう遅かった。


一瞬のうちに色々なことが起こって、気づいたときには道路の上。


突然の事態に脳内の情報処理が追いつかず、何が何だか分からなくなった。


ここはどこで、今は何をしていたんだっけ。


分かるのは、なぜか息が上がっていて体中がジンジン痛むってことだけ。


なーにやってんだ、あたし。

いい歳してアスファルトに寝っ転がっちゃって……。


自らの思考で我に返り、ガバッと体を起こした。


その拍子に右足首に激痛が走り、思わず顔を歪める。


見たところ出血は無いが、経験上これは後が長引くタイプの怪我である。


他は、ひざを擦ったり手のひらの皮がめくれたり。


────やっちゃった。事故った。


タバコ屋の角から急に飛び出て来たアレは、そう。赤い自転車。


それはあまりに突然で、ブレーキを掛けるどころか声を上げる間も無かった。


金属か何かがぶつかる大きな音がして、うるさいって思ったときにはもう地面に投げ出された後で、視界がぐるぐる回っていて、それで……。


あたしは軽傷で済んだけど────相手は?


不吉な予感がして、全身が震えた。


数メートル向こうの道路に、あたしの自転車が倒れている。

車輪がカランカランと不自然な音を立てている。


不安を抱えたまま、視線を横に流す。

血を連想させる真っ赤な自転車がまるでゴミのように転がっていて、その傍(かたわ)らには────


小さな背中が蹲(うずくま)っているのが見えた。

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