小さなキミと





その日の終礼後、「帰りどっか寄り道しない?」という結の提案に、

たまたま部活がオフだったあたしは二つ返事でOKした。


今日は先生たちのよく分からない緊急会議のおかげで、どの部活動も休止になったのだ。


日向も誘ったけれど、残念ながら彼女は用事があってパス。


結は、桜通りで買い食いしたいというあたしの希望をあっさり却下した。


「あたし今日はゲーセンに行きたい気分だから、付き合って」


そんな感じで、目的地は駅横のゲーセンに決められた。

なぜだろう、主導権はいつも結が握っているのだ。


若南最寄りの無人駅まで自転車を走らせ、そこから電車に揺られること約5分。


たどり着いたのは、ここらじゃ一番規模が大きい駅だ。


電車を降りて階段を上ると、改札の向こう側の大きな時計台が視界に確認できた。


そこは定番の待ち合わせスポットで、時間帯のせいか時計台周辺には結構な人数の学生が見受けられる。


あたしは結に続いて何の気なしに改札へ近づき……思わず絶句した。

学生たちの中に、堂々たる肉体をまとったアイツを発見したからだ。


こんな偶然、有り得ないでしょ。


何で、何で……


元中央中名物、ムキムキ筋肉男(今日のお昼、何カ月かぶりに話題に上がった人物)がここに居るワケ?


あたしは、何食わぬ顔で改札を抜けようとする結を駅員室の脇へ引っ張った。


「ちょっと、結。なんで寺井呼んだ? 何企んでんの?」


あたしは不機嫌全開で結に詰め寄った。


「えー、寺井がいたのぉー? やだぁー、なんてグーゼン」


視線を泳がせ、すっとぼける結。


「そういうのいいから、あたし帰るッ」

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