小さなキミと





「奏也、500円貸して。明日絶対返すから」


周りの騒音に負けじと大きな声でそう言って、幼馴染の葉山圭がニカッと白い歯を見せた。


「もうやめとけって。圭の腕じゃあ1万使ってもコレは取れねーよ」


日頃、爽やかだとかイケメンだとか騒がれている圭だけど、

ユーフォーキャッチャーの前で口をとがらせる今のコイツは、ただのデカいガキだった。


オレと圭は、臨時の部活オフを利用して、駅近くのゲーセンまでやって来ていた。


ユーフォーキャッチャーの透明なケースの中で、

ふわふわした茶色い毛に身を包まれたクマのぬいぐるみが、こっちを見てふにゃっと笑っている。


「これ、結にあげたかったなぁ。なんか、このクマ結っぽくて可愛くない?」


……またそういう恥ずかしいことを言うんだ、コイツは。


「あー、まー、圭がそう見えるならそうなんじゃないの?」


圭は、きっと鳴海さんのことが好きなんだと思う。


だけどこういう話題は扱いを間違えたらエライことになるので、本人が言わない限りは突っ込まないことに決めていた。


そして圭も、ハッキリとオレに言う気はないようだ。


帰りの電車賃ギリギリしか残っていないくせに、

圭はそのユーフォーキャッチャーの前で暫(しばら)くぐずぐずしていた。


オレの残り財産は、電車賃を抜いてあと千円ちょっと。


しょうがねーなぁ、ちぃっと協力してやるよ。


「圭、そこ退け」


オレが言うと、圭は途端に嬉しそうな顔になって、ササッと場所を譲った。


あーあ、オレって変なところでお人よしだよなぁ。

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