小さなキミと

駆け抜けた先で

ゲーセン特有のやかましい音楽のせいで、この距離からでは彼らの声は聞こえない。

ただ顔の表情だけなら、バッチリ覗(うかが)い知ることが出来た。


普段、爽やかな笑顔を絶やさないあの葉山くんが、なんと。

初対面時の服部並みに不機嫌な顔をしているではないか。


葉山くんが、怪訝そうに結に何かを言った。


戸惑いながら、首を横に振る結。


会話の内容を都合よく解釈すると、「コイツ結の彼氏?」「違うよ」ってところかな?


葉山くんの視線が、結の隣に立つ大柄な男子高生、寺田の友人の南雲(なぐも)くんへと移った。


ジィっと南雲くんを見つめる葉山くん。

訳が分からないとでも言いたげに、困った表情で頭をポリポリとかく南雲くん。

その様子を、両替機の脇から覗き見するあたし。


おぉ、これは何だか面白い展開になりそう。


あたしは暫(しばら)く、この場を動かないことに決めた。







遡(さかのぼ)ること15分前。


久しぶりに再会した寺田は相変わらずの変人だし、寺田の友人“森くん”は何だかムスッとしてるし、寺田のもう一人の友人“南雲くん”は対面してからずっと結にベッタリだし。


ゲーセンに入ったばかりだったけど、あたしは早くも帰りたい気分でいっぱいだった。

< 68 / 276 >

この作品をシェア

pagetop