小さなキミと
ど、どどどうしよう。


血相を変えて、あたしはその人物のもとへすっ飛んだ。


大怪我でもして動けないんじゃないかと心配したが、近くに来てみてホッとした。

遠目からは蹲っているように見えたけれど、実際はそうではなかったのだ。


“彼”は地面に這いつくばって、頻(しき)りに首をキョロキョロさせていた。


怪我ではないと分かり、とりあえず一安心だ。

だけど、彼は一体何をしてるんだろう。


「あのぉ、大丈夫ですか?」


恐る恐る問いかけるも、返事は返ってこない。


肩幅の合っていない黒のブレザーに、これまたサイズが少し大きめの、同じ色のズボンを身にまとった彼。


あたしは、今朝意気揚々と中学校の入学式に向かった、弟の凛太朗(りんたろう)を思い出した。


アイツも学ランぶかぶかだったなぁ。


「何してるの?」


凛太朗よりも小さな背中の彼は、相変わらず答えてくれない。

それどころか、聞き間違いでなければ、今……。


「ねぇ、舌打ちしたでしょ? 何その態度。さすがに腹立つよ、それは」


それでもだんまりを決め込む彼。

ちょっとちょっと、こっちは心配してるっていうのに。


「何とか言いなよ、おーい。聞いてんの?」


またまた無視。

なんなんだこの失礼な少年は。


こうなったら耳元で叫んでやろうかと思い、しゃがみ込んで顔を近づけたときだった。

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