小さなキミと





なんだか気分が良かったので限界まで走った結果、たどり着いたのは見知らぬ雑居ビルの駐車場らしき場所だった。


汗だくでゼーゼーと息を切らすあたしに対し、服部は軽く息呼吸が乱れる程度。

同じバレーボール部のはずなのに、この差は一体どういうことだろう。


あたしは空いた駐車スペースのコンクリートブロックに座り込み、カバンから出したハンドタオルに顔をうずめる。


聞こえるのは、ハァハァという自分の荒い息遣いだけ。


ふと、服部が女に囲まれていた先ほどの光景が脳裏に蘇り、チクリと胸が痛んだような感覚が走った。


え……なにコレ。なんか嫌な感じ。


訳が分からないまま顔を上げると、服部が居なくなっていた。


またチクリ、と謎の胸の痛みがあたしを襲う。


キョロキョロと辺りを見回してみると、服部は道路の向こう側、自販機の前に居た。


すると今度はドキッと心臓が跳ね上がったような感じがした。


無意識に、あたしは自分の左の掌(てのひら)を見つめていた。


繋いでいた、服部の手の感触がまだ残っている。


背は小っさいけど、手は意外と大きくて骨ばってたな。


そんでもってあったかくて、柔らかくって……って、待て待てあたし。


何を考えてるんだ。


まさか……まさかね、有り得ない。

有り得ないから。


心の声とは裏腹に、まだ回復しきっていない走った後の心臓が、さらにドックンドックンと暴れ出す。


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