小さなキミと
「あった!」


歓喜の声と共に彼が勢いよく頭を上げ、

その拍子に、あたしは顎(あご)に頭突きを食らった。


「つぅ……」


今度はあたしが蹲る破目(はめ)になった。


「あ、大丈夫ですか?」


悪びれる様子は微塵(みじん)も感じられない、呑気な声が降ってきた。


大丈夫、じゃないっつーの!

顎を押さえながら、顔を上げてキッと彼を睨む。


「ちょっと……」


しかし、彼を一目見て思わず固まってしまった。


想像以上に……彼が子どもだったからだ。


見れば見るほどあどけなく、見様によっては小学生だ。


「すんません、コンタクト落としちゃって。見つけたからいいんスけど」


そんな見た目とは裏腹に、今時の若者みたいなしゃべり方をする彼。


あたしの視線から逃げるように、彼は立ち上がって制服の汚れを叩(はた)き落とした。


あたしも倣(なら)って立ち上がる。


ここは年上のお姉さんらしく、余裕を見せないと。


「ごめんね、お姉さん不注意だった。怪我してない? 痛いとこない?」


やはり小柄な彼の身長に合わせて少し身をかがめ、優しい声で語りかける。


自分でも気持ちが悪いくらいに。


すると彼は、眉間にしわを寄せてあたしを見上げた。


「……大丈夫スけど。オレ急ぐんで、示談(じだん)金とかは後日ってことで」


フイッと顔を背けて、自分の自転車を起こす彼。


示談……って、何それ。ちょっと薄情じゃない?


っていうか意味分かって言ってんの? このガキ。

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