小さなキミと
「さっき結に聞いた。つーかぶっちゃけ信じてなかったけど、その反応マジじゃんっ。
へーっ、女嫌いの奏也くんがまさか押し」


慌てて、興奮気味の圭の口を両手で塞(ふさ)ぐ。


「お前いい加減にしろよ」


「そこーッ、なにサボってんだッ」


割り込んで来た怒鳴り声に、オレたちは2人してビクッと肩を震わせる。

見ると、体育科の教師がこっちへ向かって叫んでいた。


「葉山ーーーーッ、手が空いてんならこっち手伝えッ」


「うわ……最悪。あの人うちの顧問じゃん」


名指しを受けた圭は、苦々しい顔でつぶやいて、すぐにその教師の元へ走って行った。


圭がいなくなったのはいいけれど。

最後に言われた言葉のせいで、オレは作業に集中出来なくなってしまった。


アレは押し倒したって言わねーだろ……


どっちかっつーと、オレが被害を被(こうむ)った方じゃね?


ふいに、あのときの剛の顔が頭をよぎる。


いやでも……アレはちょっと、ヤバかった。


なんか、すっげー、じぃーっと見てくんだもんアイツ。


それ以前に、女子と手を繋ぐとか、オレにとっては大事件なワケで。


こっちが必死で冷静を装って普段通りにしてたっていうのに、

なんか取り乱してアイツおかしくなってたから、つい「女だと思ってない」とか口走って……


つーかそもそもオレ、いつもそんなようなこと言ってるし。


アイツだってオレに、チビとかガキとか小学生とか、普通に言うし。


現に、朝だってアイツに『デカ女』とか言っても全く動じないし。


あの日の剛の涙の理由が、オレには未だに謎のままだった。

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