小さなキミと
彼の素っ気ない言い草や態度に、沸々と怒りが湧(わ)いてくる。


っていうか、少しはこっちの心配もしてくれたっていいじゃん。

気にしないようにしてるけど、あたし右足首の痛みが全然引かないんだよ?


苛立ちを断ち切るように彼に背を向け、自分の自転車を起こそうと手を伸ばす。


そこでふと、あることに気がついた。


「なんかあったら電話して。一応、“お姉さん”の番号も教えてほしいんだけど」


なぜか“お姉さん”をやたら強調した声に振り返ると、彼は数字の書かれたノートの切れ端をあたしに差し出していた。


今時アナログかよ。

いや、そんなことより。


「あのさ、自転車貸してくんない?」


「ハァ?」


あからさまに嫌悪感を顔に出した彼に再度イラッとしつつ、あたしは倒れた自分の自転車のタイヤを指さした。


車輪に繋がっていたはずの金属棒が何本か、痛々しく折れている。

それに加えてタイヤ全体が大きく湾曲していて、まともに走行できるとは到底考えられない。


「ほら、見てよこれ。壊れちゃってんの」


彼はかがんで、タイヤに顔を近づける。


「……これはオレが弁償ってことになるの?」


苦々しい顔で、彼はあたしを見上げた。


えぇっ、弁償?

そうじゃないよ。


あたしは、あなたの自転車を貸してって言っただけじゃん。

人の話、ちゃんと聞いてた?


っていうか偉そうに示談金がどーのって言ってた割にはビビりだなオイ。

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