小さなキミと
「もう……逃げられないよ?」


ハァハァ息を切らせて言ったあたしは、

結と一緒に捕まえた日向の腕を引っ張って、もといた机の前へと連れ戻した。


「で、なに? なんて返事したワケ? 世良くんに」


結が、迫力満点の笑顔で日向に詰め寄った。

あたしもワクワクしながら日向の返事を待つ。


最近の日向って、世良くんとよく喋ってるの見るし、仲が良さげでいい感じだと思ってたんだよね。


日向が顔を真っ赤にして逃げていたのも、照れ隠しだと思い込んでいた。


ところが、返って来たのはこんな期待外れな言葉だった。



「だから、違うって言ってんじゃん。あたし告られてないからっ
たまたま偶然、体育館の裏で会っただけ。で、ちょっと喋っただけ」


「え、でも呼び出されたって……」


そう言ったあたしを、日向はキッと睨み上げた。


「呼び出されたなんて言ってない。
“世良くん”“体育館の裏”ってワードだけ聞いて、そっちが勝手に解釈しちゃったんでしょ」


ぷりぷり怒ってカッターシャツを羽織った日向だけど、相変わらず顔が真っ赤なのが少し気になる。


「じゃあ逃げなくてもいいのに」


「ホントホント」


謝りもせずに文句を言うあたしと結に、日向は「フンッ」と子どもっぽく顔を背けた。


「ていうかそもそも、なんで体育館裏なんて行ったワケ? 体育館なんて、あたしら行く必要あった?」


「あぁ、確かに言われてみれば……」


そこまで言って、あたしはあることが頭に浮かんだ。


結も同じことを思ったらしく、2人して顔を見合わせ、思わず笑みがこぼれた。

< 98 / 276 >

この作品をシェア

pagetop