小さなキミと
体育館では、バスケの試合しか行われていない。

そして、バスケと言えば世良くんだ。


彼はバスケ部に所属していて、今回の種目もバスケを選んでいたはずだ。


日向め、隙を見てこっそり見に行ってたんだ。

言ってくれれば付き合ったのに。


あ、いや。実際そう言われても、もしかしたら付き合えなかったかもしれない。


あたし審判で忙しかったし、服部の試合も見たかったし……



「日向って、世良くんのこと好きでしょ。未だに教えてくれないけどさ」


あたしが考えを巡らせている間に、すねた調子で結が言った。


「え」と日向が声を漏らす。


「そーだよねぇ。バレバレなのにね」


あたしは結に加勢してみた。



すると日向は、目を伏(ふ)せて黙ってしまった。


あれ? 思ってたのと違う反応。

全力で否定するかと思ったのに。


そしてこれは、照れているとはいえない感じだ。


あたしも結も何も言えなくなってしまって、静かに制服のスカートを腰まで引き上げた。



「言わないでね。絶対、誰にも」


しばらくして、どこか決意のこもった力強い口調で、日向がそう言った。


「えっ」


マジでーーーーっ!?


と叫びたいところだけど、グッと堪えて言葉の続きを待った。


「中学のとき……あたし好きな人がいて。友達に言ったら、本人にばらされて超最悪な目にあったから……」


悲しそうにつぶやいた日向に、あたしも結もかける言葉が見つからなかった。



そっか……それで日向は、世良くんのことを頑なに言わなかったんだ。


でも、今、やっと教えてくれたね。

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