きっと、明日も君がすき。
どうしたのかな。


不思議に思って名前を呼べば、佐田君が口を開いた。


「行くから」


「え、」

「そっち」

そう言ったかと思うと背を向けて昇降口へと歩いていく。


その言葉のとおり、外履きから上履きへと着替えた結真くんはすぐに美術室へ来た。


「どうしたの…?」

「別に。ちょっと残って勉強しようかと思って」

そう言いながら結真君は横にある机へと座り、鞄の中から教科書とノートを取り出す。

「ここで?」

「悪い?」

ぶんぶんと首を左右に振る。

「そんなっ、全然!」

「ん」



そういうと、勉強を始めた結真君。


その姿を眺める。いきなり…どうしたんだろう。


良く考えれば、クラスの違う結真くんとこうして同じ空間にいることは初めてかもしれない。


美術室だけれど。


勉強している風景を見たこともない私は、珍しく貴重な結真君の姿を必死に目に焼き付ける。

結真君が自分の意思でここまできて、私に話しかけてくれてここにいてくれている。

同じ空間にいることを許可してくれていることが嬉しくて。


できれば勉強している結真君の写真を撮りたいと思ってしまうけれど、そんなことをすれば結真君は帰ってしまうんだろうな。





しかたがないから頭に、目に焼き付ける。

こういう風に結真くんはいつも勉強してるんだな。

私も同じクラスだったらよかったのに。

同じクラスの子は毎日ずっと結真君が勉強している姿を見ることができるんだよね。


いいなぁ。


「……手」


「えっ、」

眺めていれば、ふいに上がった結真君の視線が私を見る。


その目は相変わらずの気持ちの悪い物を見るような視線で。

見すぎたことがばれたかな…ばれているのだろう。

「動かせば?何のために残ってんの」

「…すみません」


言われて、作業を再開する。


9時まできっちり。


私は作品作りを、結真君は勉強を終わらせて帰るのかと思いきや、結真君は私が片付けるのを黙って待ってくれて、そのまま一緒に帰った。

あまりしゃべることもなくて、でもそんな空気が好きで。


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