きっと、明日も君がすき。


「声が小さい!もう一回!」


「浜本春香!」

「はい!」


「さみぃー…」


「しっ!」


端っこに数箇所設置された暖房器具の稼働音と、名前を読み上げる先生の声。
返事をする生徒の声しか響かない体育館。


卒業式のリハーサルを兼ねた全校集会で私たち実習生も参加することになった。


お昼ご飯を食べたばかりだけど、正直睡魔より寒さの方が勝ってしまいこの寒さをどうやって耐えようか、さりげなく手をさするくらいしかできなくて辛い。


そんな中ぽつりと呟いた山根くんに、垣添さんが咎めるように軽く腕をつついた。

眠たくないと言えば嘘になるけれど、この寒さの中でうたた寝するのは無理だ。

できれば待機の方が良かったなぁと思いつつ、綺麗に並べられ座っている中で寝ているのだろう、頭が不自然に動いている子を見つけてはすごいなぁと思う。


「高校の卒業式って長いよな…」

「もうちょっと暖房効かせてくれたら良いのに…」


「帰りたい」


各々不満を小声で言えるのは、私たちがなぜか教員側の席ではなく、保護者席からでの参加だからだ。

卒業生、その後ろに並んだ在校生、そこから更に後ろの保護者席。


「ねーねー、志桜里達の卒業式ってどうだったの?」



ふと隣の垣添さんが、私に顔を向けて質問してきた。




「どうだった…?」

「今と変わらないけど…」

答えに困る。まだ卒業して数年しか経っていないし、そもそも卒業式のプログラムはそうそう変わらないだろう。

「式自体じゃなくてさ!終わった後だよ、ほら、ボタンが〜とか。どうだった?佐田!」

食いついてきた山根くんが佐田くんの肩に自分の肩を当てる。


「別に無かった」

垣添さんと山根くんに挟まれていた佐田くんは山根くんの方へ顔だけを向ける。


垣添さんで私からは佐田くんの顔が見えない。


…それで良かったと思う。


卒業式だったり、いろいろと振り返る話題は苦手だ。


きっと、ぎこちない表情しか作れないから。


今も自然でいられてるだろうか内心不安になる。

「嘘付け!後輩からとか、同級生からとか、告白あっただろ!」


「無い無い。終わってすぐ部活の後輩から送りがあって解散したし」

「またまたぁ〜」

「絶対佐田くんもててたでしょ〜」

あはは、と笑う他の人達。


ふいに、前かがみになって佐田くんの様子を窺っていた山根くんと目が合った。


その瞬間、どうして前を向いておかなかったんだろうって後悔した。


「矢野さん知ってるでしょ?佐田モテてたでしょ?」


ニヤリと佐田くんを見た後わたしに期待の眼差しを向けてくる山根くん。


それに合わせて垣添さんと佐田くんも私を見る。




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