きっと、明日も君がすき。



外からはまだ楽しそうな声が聞こえてくる。

それぞれ場所に分かれて集まっているのだろう。ゆっくりと、3年間に想いを馳せながら向かう。


靴を履き替えて、出てみるとぽつりぽつりと集まって写真を撮ったり、話をしていたり。


目を凝らして探してみるけれど、佐田くんの姿は見つからなくて。


残っているのは女のコが多くて。

男の子の別れの挨拶って案外あっさりしてるのかな…なんて思ってしまった。


ざっと歩きながら探して見たけれど見つからなくて。


…しょうがないよね。


きっと会うなってことなんだ。


そう思って校舎の中へと入った。



最後に行きたい場所は決めてた。

大切な、場所。

カラカラ……



「やっときた」

振り返って私を見つけて、にっこり笑う。


「田島先生…」


「遅いよ。寄らずに帰ったかと思った」


「そんなはず…」


ないです。そう言おうと思ったのに。


先生の顔を見たら、何故か涙が浮かんできて。


「おいで」



優しい声でそう言われて、泣くまいと目に力を入れながら振り返ってドアを閉めながら必死にごまかす。


「卒業祝いで紅茶淹れてあげる」


ゆっくりと椅子に近づく私に、先生は席を立って歩いていく。



カチャカチャと音がするのを心地よく思いながら、ぼーっと室内を眺める。


「はい。熱いから気をつけてね」

そう言って差し出されたカップ。ゆっくりと両手で包み込むと外に出ていて冷えた指先をじんわり温めてくれてちょうどいい。


「他の子は…」


「挨拶だけして帰って行ったよ。みんな今から美容室に行くんだって。早速変わるんだろうなぁ」



嬉しそうに言う田島先生。


「矢野さんももしかしてこの後美容室?」

そう聞かれ、カップに視線を落としたまま首を左右に振った。


「そっか」


しん…と静かになる美術室。


だけど不思議と、静寂が気にならなくて。


そろそろ大丈夫かなと一口飲んで、アップルのいい香りが広がって、身体がじんわり中から暖かくなった所で先生が口を開いた。


「…で。卒業しておめでたい日なのに浮かない顔してるのはどうして?」


…え…


はっと顔をあげれば、田島先生は真っ直ぐ私を見ていて。



< 133 / 156 >

この作品をシェア

pagetop